死後事務委任契約ガイド

死後事務委任契約を公正証書で作成:メリットと具体的な手続き・費用ガイド

Tags: 死後事務委任契約, 公正証書, 終活, 一人暮らし, 手続き, 費用, 専門家選び

死後事務委任契約、なぜ公正証書での作成が推奨されるのか?

ご自身の死後の手続きについて不安を感じている方は少なくないでしょう。特に、身寄りのない方にとって、葬儀の手配、行政への届け出、身辺整理などを誰に託すかは、終活における大きな課題です。こうした死後の事務手続きを特定の相手に託すのが「死後事務委任契約」です。

この契約は、プライベートな契約書としても有効ですが、多くの専門家は「公正証書」での作成を推奨しています。なぜ公正証書で作成することが望ましいのでしょうか。そして、具体的にどのような手続きが必要になるのでしょうか。

この記事では、死後事務委任契約を公正証書で作成するメリットと、実際の作成プロセス、費用について詳しく解説します。ご自身の死後の安心を確実に得るための第一歩として、ぜひ最後までお読みください。

死後事務委任契約とは?改めて基本を確認

死後事務委任契約とは、ご自身の死後に行われる事務手続き(葬儀や埋葬に関する手続き、行政への届け出、病院や施設の費用精算、家財道具の処分、賃貸住宅の解約など)を、生前に特定の相手(受任者)に依頼し、任せるための契約です。

この契約により、ご自身の希望に沿った形で死後事務が行われることを期待できます。特に、ご家族や親族にこうした手続きを依頼することが難しい方にとっては、非常に有効な手段となります。

公正証書で死後事務委任契約を作成するメリット

死後事務委任契約は、当事者間での合意があれば口頭や私的な書面でも成立し得ますが、公正証書として作成することで、その契約の有効性や信頼性が格段に高まります。具体的には以下のようなメリットがあります。

1. 高い証拠力と法的信頼性

公正証書は、法律の専門家である公証人が作成する公文書です。公証人は、契約内容がご本人の意思に基づいているか、法令に違反していないかなどを確認した上で作成します。これにより、契約の有効性や内容が真実であることが強く推定され、後日、契約の有効性や内容について争いが生じるリスクを低減できます。

2. 執行力の確保(一部)

死後事務委任契約の内容によっては、公正証書にすることで強制執行力が認められる場合があります。例えば、未払いの病院費用の支払いなど、金銭の支払いを目的とする項目がある場合、公正証書にその旨を記載しておくことで、裁判手続きを経ずに強制執行が可能となる場合があります。これにより、受任者がスムーズに事務を進めるための助けとなります。

3. 契約内容の明確化

公証人が関与することで、契約内容が曖昧になることを防ぎ、具体的かつ明確な形で文書化されます。これにより、委任者(依頼する側)と受任者(引き受ける側)の間で認識のずれが生じるリスクを減らし、受任者が迷うことなくスムーズに事務を遂行できるようになります。

4. 紛失・偽造のリスク軽減

作成された公正証書の原本は、公証役場で原則20年間保管されます。これにより、契約書を紛失する心配がなく、また偽造されるリスクも極めて低いと言えます。必要な際には、公証役場で謄本(正本や謄本)の交付を受けることができます。

5. 受任者の負担軽減

公正証書があることで、受任者は自身が死後事務を正式に依頼されていることを、関係機関(病院、役所、金融機関など)に対して明確に示すことができます。これにより、手続きがスムーズに進みやすくなり、受任者の精神的・手続き的な負担を軽減できます。

公正証書で作成する場合の注意点・デメリット

公正証書で作成することには多くのメリットがありますが、いくつかの注意点やデメリットも存在します。

これらの注意点を理解した上で、公正証書作成のメリットと比較検討することが重要です。

公正証書で死後事務委任契約を作成する具体的な手続きの流れ

死後事務委任契約を公正証書で作成する場合、一般的に以下のような流れで手続きが進みます。

1. 契約内容の検討・決定

まずは、ご自身が死後にどのような事務手続きを誰に任せたいのか、具体的にリストアップします。葬儀の方法や場所、納骨先、行政手続き(死亡届など)、病院や施設の精算、公共料金の停止、賃貸契約の解約、家財道具の処分など、考えられる項目を整理します。そして、依頼したい相手(受任者)と、依頼内容について事前に話し合い、合意を得ておくことが不可欠です。

2. 専門家への相談(推奨)

死後事務委任契約の内容は多岐にわたり、法的な知識も必要となる場合があります。また、ご自身の状況に合わせたきめ細やかな内容とするためには、弁護士、行政書士、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。専門家は、契約内容のアドバイス、文案作成のサポート、必要書類の案内、公証役場との調整など、公正証書作成手続きを円滑に進めるための支援を提供してくれます。

3. 公証役場への相談・予約

契約内容が固まったら、受任者とともに、または代理人を通じて、お近くの公証役場に相談します。作成したい公正証書の種類(死後事務委任契約)、契約内容の概要、関係者の情報などを伝え、作成が可能か、どのような書類が必要かなどを確認します。その後、公証役場と具体的な作成日時を予約します。

4. 必要書類の準備

公正証書作成には、いくつかの必要書類があります。一般的には以下の書類が必要となります。

※必要書類は契約内容や公証役場によって異なる場合がありますので、事前に公証役場または依頼する専門家に必ず確認してください。

5. 公正証書の作成・署名

予約した日時に、原則として委任者と受任者が一緒に公証役場に出向きます。(やむを得ない事情がある場合は代理人による手続きも可能ですが、委任状が必要になります) 公証人が作成した公正証書の文案を確認し、内容に間違いがなければ、公証人、委任者、受任者が署名・捺印を行います。これで公正証書は完成です。

6. 費用の支払いと謄本の受領

公正証書の作成が完了したら、公証人手数料を支払います。手数料は、契約で定める事務内容の「目的価額」などを基準に算出されます。詳しくは後述します。手数料の支払い後、公正証書の正本、謄本を受け取ります。正本は受任者が、謄本は委任者が保管することが一般的です。原本は公証役場に保管されます。

死後事務委任契約(公正証書)にかかる費用

公正証書作成にかかる費用は、主に公証人手数料と、専門家に依頼した場合の報酬です。

公証人手数料

公証人手数料は、契約で定める死後事務の「目的価額」に応じて政令で定められています。目的価額とは、契約によって実現される経済的利益の額などを指しますが、死後事務委任契約のように金銭のやり取りが主目的でない場合、その性質によって手数料が算定されます。

例えば、財産の処分や管理を伴わない一般的な死後事務(葬儀・納骨、行政手続き、身辺整理、支払いなど)のみを委任する場合、目的価額を算定することが難しいため、手数料は1件につき11,000円(令和4年1月現在)となることが多いです。ただし、財産管理や契約解除に伴う金銭の受領など、経済的な利益が発生する項目が含まれる場合は、別途加算されることがあります。また、証人2名が必要な場合は、証人費用(公証役場で手配する場合)が別途かかります(一般的に1人あたり6,000円〜1万円程度)。

総額としては、11,000円〜2万円程度となるケースが多いと考えられます。具体的な費用については、事前に公証役場に問い合わせて確認することをおすすめします。

専門家への報酬

弁護士、行政書士、司法書士などに公正証書作成のサポートを依頼する場合、別途専門家への報酬が発生します。報酬額は事務所や依頼内容によって異なりますが、一般的には数万円から十数万円程度が目安となることが多いようです。

専門家に依頼することで、契約内容の検討から書類準備、公証役場との調整までスムーズに進めることができ、ご自身の負担を大幅に軽減できます。費用対効果を考慮して検討すると良いでしょう。

信頼できる専門家を見つけるには?

公正証書作成をサポートしてくれる専門家は、弁護士、行政書士、司法書士などがいます。それぞれの特徴を理解し、ご自身の状況や希望に合った専門家を選ぶことが重要です。

専門家を選ぶ際は、以下の点に注目すると良いでしょう。

インターネット検索、専門家団体の公式サイト(弁護士会、行政書士会など)のリスト、地域の相談会などを活用して、複数の専門家を比較検討することをおすすめします。初回無料相談を実施している事務所もありますので、活用してみるのも良いでしょう。

契約締結後の注意点

公正証書で契約を締結した後も、いくつか注意しておきたい点があります。

まとめ:公正証書作成で死後の安心を確実に

死後事務委任契約を公正証書で作成することは、その法的効力と信頼性を高め、ご自身の死後事務をより確実に遂行してもらうための非常に有効な手段です。特に、ご親族に頼ることが難しい方にとっては、公正証書という公的な文書で契約を結ぶことが、受任者にとっても、そして様々な手続きを行う上で関係機関に対しても、大きな安心材料となります。

公正証書作成には一定の費用と手間がかかりますが、専門家のサポートを得ながら進めることで、手続きの負担を軽減し、ご自身の希望を反映させた、抜け目のない契約内容を作成することができます。

ご自身の死後の不安を解消し、安心して晩年を過ごすための一歩として、死後事務委任契約の公正証書作成を検討されてみてはいかがでしょうか。まずは、終活や死後事務委任契約に詳しい専門家に相談してみることから始めてみましょう。