死後事務委任契約ガイド

生前から死後までを任せる:一人暮らしのための死後事務委任契約+任意後見契約ガイド

Tags: 死後事務委任契約, 任意後見契約, 一人暮らし, 終活, 専門家選び, 費用, 公正証書, 生前整理, 身寄りのない方

一人暮らしの終活における不安と「切れ目のない安心」の必要性

配偶者やお子さんがいらっしゃらない一人暮らしの方にとって、ご自身の「終活」は重要な課題です。特に、ご自身の死後の手続きを誰に任せるのか、また、もし病気やケガで判断能力が低下した場合にどうするのか、といった不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。

死後事務委任契約は、まさにこの「死後の手続き」に関する不安を解消するための有効な手段です。しかし、終活で考えるべきことは、死後のことだけではありません。ご自身の判断能力が十分でなくなった時の生活、療養看護、財産管理なども、生前にきちんと備えておくことで、より安心して日々を過ごすことができます。

本記事では、死後事務委任契約でカバーできる範囲と、それだけではカバーできない範囲を明確にし、一人暮らしの方が生前から死後まで「切れ目のない安心」を得るために、任意後見契約との併用がなぜ有効なのかをご説明します。それぞれの契約の概要、任せられること、費用、そして信頼できる専門家の選び方まで、具体的な情報を提供することで、あなたの終活の計画を立てる一助となれば幸いです。

死後事務委任契約で任せられること・任せられないこと(おさらい)

まず、死後事務委任契約について改めて確認しておきましょう。これは、ご自身の死後に発生する様々な事務手続きを、信頼できる第三者(受任者)に託す契約です。

主に以下のような事務を委任することができます。

このように、死後事務委任契約は、ご自身の死後の身辺整理や各種手続きを円滑に進めるための、非常に広範な権限を委任できる契約です。

しかし、死後事務委任契約は、あくまで「ご本人の死亡によって効力が発生し、死後に必要な事務を行う」ための契約です。そのため、以下の事項は、この契約だけでは行うことができません。

特に、判断能力が低下した場合の療養看護や財産管理は、死後事務委任契約の対象外となります。一人暮らしの場合、この点への備えも非常に重要になってきます。

任意後見契約で任せられること

ここで登場するのが「任意後見契約」です。任意後見契約とは、ご自身の判断能力が十分なうちに、将来、判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめご自身が選んだ人(任意後見受任者)に、財産管理や生活・療養看護に関する事務について代理権を与える契約です。

任意後見契約で任せられる主な内容は以下の通りです。

任意後見契約は、ご自身の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点から効力が発生します。任意後見受任者(後に任意後見人となる)は、任意後見監督人の監督のもと、契約で定められた事務を行います。

この契約は、ご自身の判断能力が十分な「現在」からスタートし、判断能力が低下した「将来」に備えるためのものです。

なぜ一人暮らしの終活で「死後事務委任契約+任意後見契約」の併用が有効なのか?

一人暮らしの方が、生前の判断能力低下から死後まで、自身の希望に沿った生活を送り、円滑な手続きを確保するためには、死後事務委任契約と任意後見契約の「併用」が非常に有効です。

それぞれの契約がカバーする期間と役割は以下の通りです。

つまり、任意後見契約で判断能力低下後の生活や財産管理を任せ、死後事務委任契約で死後の手続きを任せることで、生前から死後まで、ご自身の「もしも」の時に対応できる切れ目のないサポート体制を構築できるのです。

特に身寄りがいない場合、ご自身の判断能力が低下した際や亡くなった後、ご自身の財産や希望が置き去りになってしまうリスクがあります。任意後見契約と死後事務委任契約を信頼できる第三者(専門家)にまとめて依頼することで、これらのリスクを回避し、ご自身の意思を最大限に尊重した手続きを実現することが期待できます。

併用契約の受任者・任意後見人選び:誰に依頼するのが安心か

死後事務委任契約の受任者と任意後見契約の任意後見受任者(後に任意後見人)は、同一の人物または法人に依頼することが可能であり、推奨されます。 これは、生前から死後まで一貫した意向把握と事務処理を期待できるためです。

併用契約の依頼先としては、以下のような専門家が考えられます。

これらの専門家は、それぞれの得意分野や経験が異なります。併用契約を依頼する場合、任意後見契約と死後事務委任契約の両方について知識と経験が豊富であることが重要です。

信頼できる専門家を見つけるためのポイントとしては、以下のような点が挙げられます。

併用契約にかかる費用の目安と内訳

死後事務委任契約と任意後見契約を併用する場合にかかる費用は、契約内容や依頼する専門家によって大きく異なります。一般的に、それぞれの契約にかかる費用を合算した金額が目安となりますが、併せて依頼することで割引が適用されるケースもあります。

任意後見契約にかかる費用(目安)

死後事務委任契約にかかる費用(目安)

併用契約の場合の費用検討のポイント

費用は重要な要素ですが、費用だけで専門家を選ぶのではなく、信頼性や実績、ご自身の希望をしっかりと聞き取ってくれるかなども含めて総合的に判断することが大切です。

併用契約を検討する上での注意点と手続きの流れ

死後事務委任契約と任意後見契約の併用を検討する際には、いくつかの注意点があります。

契約締結までの一般的なステップ

  1. 情報収集・相談: 死後事務委任契約と任意後見契約について情報収集し、ご自身の状況や希望を整理します。複数の専門家(弁護士、司法書士、行政書士など)に相談し、料金や対応などを比較検討します。
  2. 専門家の選定と打ち合わせ: 依頼したい専門家を決定し、契約内容について具体的な打ち合わせを行います。任せたい事務の内容、費用、報酬、預託金などについて詳細に話し合います。
  3. 契約内容の決定: 専門家と協議の上、契約書に盛り込む具体的な内容を決定します。
  4. 公正証書作成: 公証役場で公正証書を作成します。通常、専門家が公証役場とのやり取りをサポートしてくれます。ご本人と受任者が公証役場に行き、公証人の前で契約内容を確認し、署名・捺印します。
  5. 任意後見契約の登記: 任意後見契約は、契約締結後に登記されます。これにより、任意後見契約の存在が公的に証明されます。

この手続きを通じて、生前から死後まで、ご自身の希望を実現するための体制を整えることができます。

まとめ:併用契約で得る「一生涯の安心」

一人暮らしの方が、ご自身の終活において「死後の手続きを頼める人がいない」という不安だけでなく、「もしもの時、判断能力が低下したらどうなるのだろう」という不安も抱えるのは自然なことです。

死後事務委任契約と任意後見契約を併用することで、元気なうちから将来の不安に備え、判断能力が低下した際には任意後見人によるサポートを受け、そして死後には死後事務受任者によって希望通りに手続きが進められるという、まさに一生涯にわたる「切れ目のない安心」 を得ることができます。

費用は専門家や契約内容によって異なりますが、ご自身の状況や希望をしっかりと伝え、信頼できる専門家と相談しながら、最適な契約内容を検討することが何よりも重要です。

まずは、一歩踏み出して専門家への相談から始めてみてはいかがでしょうか。あなたに寄り添い、最善の選択をサポートしてくれるはずです。

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※上記の相談窓口は一般的なものであり、各団体や支部によって提供されるサービス内容は異なります。詳細は各団体のウェブサイト等をご確認ください。