死後事務委任契約は結んで終わり?契約後の見直し・変更・解約と受任者の交代
死後事務委任契約は「結んで終わり」ではない
死後事務委任契約は、ご自身の死後の手続きを誰かに託すための重要な契約です。特に、ご家族や親族に頼ることが難しい方が、安心して最期を迎えるための備えとして、この契約を検討されるケースが増えています。
しかし、一度契約を結べば、それで全て完了というわけではありません。契約期間はご自身の終身にわたるため、その間にご自身の状況や考えが変わる可能性、あるいは契約を引き受けてくれた受任者(依頼相手)の状況が変わる可能性も十分に考えられます。
契約締結は、安心な終活に向けた大切なスタートラインです。その安心を維持するためには、契約後の見直しや、必要に応じた変更手続きが必要になる場合があります。この記事では、死後事務委任契約を締結した後に知っておくべきこと、特に契約内容の見直し、変更、解約、そしてもしもの時の受任者に関する対応について解説します。
なぜ契約後に見直しや変更が必要になるのか
死後事務委任契約は、ご自身の希望を反映させた内容で締結します。しかし、以下のような状況の変化により、契約内容が現状にそぐわなくなることがあります。
- ご自身の状況の変化:
- 経済状況の変化(財産が増減した、新しい金融機関と取引を始めたなど)
- 身辺の変化(引っ越し、新しい趣味や関心事、ペットを飼い始めたなど)
- 考え方の変化(葬儀やお墓に対する希望が変わったなど)
- 健康状態の変化
- 受任者との関係性の変化:
- コミュニケーションが取りづらくなった
- 信頼関係に変化が生じた
- 受任者の状況の変化:
- 受任者が高齢になった、体調を崩した
- 受任者が遠方に引っ越した
- 受任者が死亡した、事務所を閉鎖した
これらの変化に対応するためにも、定期的な契約内容の見直しは非常に大切です。
契約内容の見直しや変更の手続き
死後事務委任契約は、委任者(ご自身)と受任者の合意に基づいて締結される契約です。したがって、契約内容を見直したり変更したりすることは原則として可能です。
具体的な手続きは、契約書に定められている場合がありますので、まずは契約書を確認しましょう。一般的には、以下の方法が考えられます。
1. 受任者との合意による変更覚書の作成
最も一般的な方法は、現在の受任者と変更内容について合意し、その内容を記した「変更覚書」や「合意書」を作成する方法です。この書面には、変更する具体的な条項と変更後の内容、そして変更に合意した日付と両者の署名捺印が必要です。
2. 契約書の再作成または公正証書の変更手続き
契約内容の大幅な変更や、より確実な形で変更を残したい場合は、既存の契約書を破棄して新たに契約書を作成し直すか、公正証書で契約している場合は、公証役場で公正証書の変更手続きを行います。
公正証書の変更手続きは、最初の作成時と同様に、公証人との打ち合わせや証人の立ち合いが必要になる場合があります。手続きの手間や費用がかかるため、軽微な変更であれば変更覚書で対応することが多いでしょう。
変更にかかる費用
変更手続きにかかる費用は、変更の内容や依頼する専門家によって異なります。 * 変更覚書作成のみであれば、比較的安価に済むことが多いです。 * 契約書を再作成したり、公正証書を変更したりする場合は、新規作成時と同様かそれに近い費用がかかる可能性があります。 * 新たな専門家に変更手続きを依頼する場合は、その専門家への報酬が発生します。
死後事務委任契約を解約するには
死後事務委任契約は、委任者または受任者からの申し入れにより、契約を解約することができます。ただし、委任者と受任者にはそれぞれ異なる解約権が認められているのが一般的です。
委任者からの解約
契約したご自身(委任者)からは、原則としていつでも契約を解約することができます。これは民法上の委任契約の性質によるものです(民法第651条)。ただし、受任者がすでに事務処理のために費用を支出している場合などは、その費用を精算する必要が生じます。また、契約書に解約に関する特約(例えば、一定期間内の解約は違約金が発生するなど)が定められている場合は、その特約に従うことになります。
受任者からの解約
受任者(依頼相手)が契約を解約するには、やむを得ない事由が必要とされています(民法第651条)。「やむを得ない事由」とは、例えば、受任者自身の体調不良により事務遂行が困難になった、委任者との信頼関係が著しく損なわれた、などが考えられます。
解約の手続き
解約の意思表示は、口頭でも可能ですが、後のトラブルを防ぐためにも、内容証明郵便などで書面にて行うことが推奨されます。解約の意思表示が相手に到達した時点で、契約は終了します。
解約時には、すでに受任者が行った事務の報告を受け、費用が発生していればその清算を行います。特に専門家を受任者としている場合、契約時に解約に関する条項が定められていることが多いため、契約書の内容をよく確認することが重要です。
もし、受任者が事務を遂行できなくなったら?
死後事務委任契約を結んだ相手(受任者)が、ご自身の死後、契約内容の事務を遂行できなくなる可能性もゼロではありません。例えば、以下のようなケースが考えられます。
- 受任者がご自身よりも先に死亡した
- 受任者が病気や事故により判断能力を失った、または身体的な問題で事務を遂行できなくなった
- 受任者が辞任した
- 専門家が受任者の場合、その事務所が閉鎖された
このような事態に備えておくことは、契約後の安心を維持するために非常に重要です。
契約書で「予備の受任者」を定めておく
最も有効な対策の一つは、契約締結時に、最初の受任者が事務を遂行できなくなった場合に備えて、「予備の受任者」を契約書で定めておくことです。予備の受任者は、最初の受任者と同様に信頼できる相手を選ぶ必要があります。これにより、もしもの場合でも、契約がスムーズに次の受任者に引き継がれるように備えることができます。
予備の受任者を定めていない場合
予備の受任者を定めていない、または定めていた予備の受任者も事務を遂行できなくなった場合は、新たな受任者を探す必要が出てきます。この場合、ご存命中に新たな相手と死後事務委任契約を結び直すことになります。
もし、ご自身が亡くなった後に受任者が事務を遂行できなくなった場合は、ご自身の相続人(いらっしゃる場合)が、その受任者の状況を引き継ぐことになります。相続人がいない場合は、家庭裁判所が選任する相続財産清算人が、死後事務委任契約の対応を含め、ご自身の財産に関する手続きを行う可能性がありますが、必ずしもご自身の希望通りの事務処理がなされるとは限りません。
受任者との良好なコミュニケーションが安心の鍵
死後事務委任契約は、受任者との信頼関係の上に成り立つ契約です。契約後も安心を保つためには、受任者との定期的なコミュニケーションが非常に重要です。
- 定期的な連絡: 年に一度など、定期的に受任者と連絡を取り合い、お互いの近況や契約内容に関する疑問点などを話し合う機会を持ちましょう。
- 状況の変化の報告: ご自身の生活状況や考え方に変化があった場合は、受任者に報告しましょう。それにより、契約内容の見直しが必要かどうかの判断ができます。
- 信頼関係の維持: 良好なコミュニケーションを通じて、受任者との信頼関係を維持することが、もしもの時にもスムーズに事務を遂行してもらうために大切です。
見直しや変更、トラブル発生時の相談先
死後事務委任契約の内容を見直したい、変更したい、あるいは受任者との関係で不安やトラブルが生じた場合は、一人で悩まず専門家に相談することが大切です。
- 契約した専門家: まずは、契約を依頼した弁護士、行政書士、司法書士などの専門家に相談しましょう。契約内容を最もよく理解していますし、変更や解約の手続きについても詳しいアドバイスを得られます。
- 他の専門家: 現在の受任者以外に相談したい場合は、別の専門家にセカンドオピニオンを求めることも可能です。複数の専門家の意見を聞くことで、より良い判断ができる場合があります。
- 専門家団体の相談窓口: 各専門家団体(弁護士会、行政書士会など)が、死後事務委任契約に関する相談窓口を設けている場合があります。匿名での相談が可能な場合もあり、まずは一般的な情報を得たい場合に役立ちます。
まとめ:契約後のフォローアップで「もしも」に備える
死後事務委任契約は、ご自身の死後に関する不安を解消するための強力な手段ですが、契約締結後も安心を継続するためには、定期的な見直しと、必要に応じた変更手続きが不可欠です。
ご自身の状況や考え方の変化、あるいは受任者の状況変化に対応するため、契約内容を見直したり、変更・解約の手続きを行う可能性があることを理解しておきましょう。また、もしもの時の受任者交代についても、契約時に予備の受任者を定めておくなどの対策を検討することが重要です。
受任者との良好なコミュニケーションを保ち、必要に応じて専門家のアドバイスを求めることで、契約後の「もしも」の事態にも適切に対応し、最期までご自身の希望通りの終活を実現するための安心を保つことができます。この記事が、死後事務委任契約をすでに結んだ方、あるいはこれから検討される方の、契約後の安心のためのガイドとなれば幸いです。